ヒヤリ・ハットという言葉を聞いたことがあると思います。
ヒヤリ・ハットは、重大な事故を未然に防止する為に、必要不可欠なものです。
しかし、職場によっては、犯人探しや誰かを責める為のツールというイメージがあるようです。ヒヤリ・ハットの報告件数が増えず、悩んでいる所も多いのではないでしょうか。
この記事では、ヒヤリ・ハットの本来の目的や、報告件数を増やすための取り組み等についてご紹介します。
筆者:たかはしポム太郎
資格:介護福祉士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、キャラバン・メイト、登録販売者、チームオレンジコーディネーター研修修了、ユニットリーダー研修修了、認知症チームケア推進研修修了、認知症介護実践リーダー研修修了
私は介護の現場で働きながら、介護や認知症の研修を開催や、情報発信をしています。10年間の介護現場での経験、資格取得等で培った知識を発信していきます。介護や認知症について不安を抱いている方々に役立つ情報をお届けできればと思っております。少しでも不安が解消され、今抱えているお悩みに寄り添えたら嬉しいです。
ヒヤリ・ハットとは
ヒヤリ・ハットとは、重大な事故にはならなかったものの、一歩間違えれば重大事故になっていてもおかしくなかった出来事のことを指します。
厚生労働省の定義は「危ないことが起こったが、幸い災害には至らなかった事象」です。
ヒヤリ・ハットという言葉、実は造語です。危ないと思った時に「ヒヤリとすること」と、驚いた時に「ハッとすること」を掛け合わせた言葉です。
ハインリッヒの法則

アメリカの損害保険会社に勤めていたハインリッヒが、5000件以上の事故の調査から提唱したハインリッヒの法則(1・29・300の法則)というものがあります。
「1件の重大事故の背景には、29件の軽微な事故があり、さらにその背景には300件の異常が存在する」という内容です。
この300件の異常こそが、ヒヤリ・ハットです。
現在は「重大な災害・事故防止のためのバイブル」として、日本のみならず世界中で活用されている経験則です。
介護の現場に当てはめて考えてみると、転倒等の重大な事故の背景には、300件の事故になっていた可能性がある出来事が存在するということです。
つまり、転倒等の重大事故を未然に防ぐ為に、ヒヤリ・ハットを活用し情報を共有することはとても重要なことです。
もしもヒヤリ・ハットが起こってしまった場合は、軽視せず、しっかりと原因を分析して対策をたてることで、その先の重大な事故を未然に防ぐことにつながります。
ヒヤリ・ハットの目的
ヒヤリ・ハットは、犯人探しや誰かを責める為のツールではありません。
重大事故の未然防止
ヒヤリ・ハットの本来の目的は、重大事故の未然防止です。
ヒヤリ・ハットは、重大事故の予兆であり、次にまた同じことが起きれば重大事故につながる恐れもあります。
再発防止のためには、ヒヤリ・ハットが発生した原因を探り、対策をたてなければなりません。その原因の分析や対策の立案に必要となるのが報告です。
ハインリッヒの法則にもあるように、小さなヒヤリ・ハットでも、放置して積み重なれば、いずれ重大な事故が起きることは明白です。
そのため、どんなに些細な出来事であっても、報告を徹底することで、必要な情報が蓄積されて行き、将来起こる得る重大な事故を未然に防ぎ、リスクを下げることにつながります。
情報共有
誰かが感じたヒヤリ・ハットは、他の職員にも今後、同様のことが起こる可能性があります。
報告により、ヒヤリ・ハットの内容や原因が職員間で共有され、他の職員も今後同じようなことを起こさないように気を付けて行動することができます。
誰かのヒヤリ・ハットの経験が、報告を通して、他の職員の事故防止の為の貴重な情報源になります。
ヒヤリ・ハットの報告件数が増えない原因
ヒヤリ・ハットを報告するメリットを感じない。デメリットを感じている。
職場によっては「ヒヤリ・ハットの報告件数が増えない」という課題を抱えているところもあるでしょう。
なぜ報告件数が増えないのでしょう。それは「報告したところでメリットを感じないから」「報告することがデメリットと感じているから」です。
一概には言えませんが、ヒヤリ・ハットの報告件数が少ない職場の特徴として、ヒヤリ・ハットが犯人探しや誰かを責めるツールというイメージや風潮がある場合があります。
ヒヤリ・ハットの先にある、重大な事故を防ぐ為には、できるだけ多くのヒヤリハットを報告してもらうことが重要です。
ヒヤリ・ハットの正しい理解が浸透していない
何度も書いていますが、ヒヤリ・ハットは本来、重大事故を未然に防止する為のものです。
ヒヤリ・ハットの正しい理解ができておらず、誰が悪いのかを探す犯人探しの為のツール、誰かを責める為のツールとして活用されてしまっている所もあります。
報告すると上司から𠮟責を受ける
ヒヤリ・ハットを報告すると叱られたり、報告した人のミスを責めたりする風潮が根付いている職場が存在するようです。
そんな職場でヒヤリ・ハットを報告するなんて、いわば「自首」のようなものですよね。
その為、報告したら叱られてしまうと恐れている人にとって、心理的に相当な負荷がかかります。
報告が何に利用されるのか周知されていない
職場によっては、提出したヒヤリ・ハット報告が、実際にどのように活用されているのか、その使い道が周知されていないことがあります。
「報告をしてもそのまま放置される」「放置されるぐらいなら報告は不必要」と考え、報告を上げない職員が増える可能性があります。
書式が複雑で作成に時間がかかる
書式が複雑すぎると、作成に時間がかかるため、作成自体が面倒になり、報告に繋がらないケースもあります。
ヒヤリ・ハットは日常的に発生しますが、複雑な書式で、業務の合間を縫って報告するのは容易ではありません。
報告業務がサービス残業になっている
ヒヤリ・ハットの報告は歴とした業務です。稀にヒヤリ・ハットの報告が業務として捉えられていない職場もあるようです。
そもそも書き方がわからない
周知や教育が行き届いておらず、そもそも書き方がわからない職員がいる場合があります。
ヒヤリ・ハットの報告件数を増やす為の取り組み
ヒヤリ・ハットの報告を習慣化し、報告件数を増やす為にはどうすれば良いのでしょうか。
ヒヤリ・ハットの正しい理解を浸透させる
ヒヤリ・ハットの報告件数を増やすためには、ヒヤリ・ハットの重要性や目的、正しい書き方等を職員全員に理解してもらう必要があります。
職場内研修を開いたり、指導要綱に追加する等して、職員全員の理解を促進し、浸透を図っていく必要があります。
報告書を作成した職員に感謝を伝える
ヒヤリ・ハット報告を定着させるなら、まず第一に報告を上してくれた職員をに𠮟責しないことです。
報告すると叱責されるのなら、職員にとって何のメリットもありません。
報告してくれた人は、ミスを犯した「罪人」ではなく、重大な事故を防ぐための貴重なヒントを提供してくれた「功労者」と考えて、報告してくれたことに感謝を伝えてください。
感謝を言葉で伝えることは、信頼関係の構築にもつながります。
職場によっては、ヒヤリ・ハットの報告件数が多かった職員を表彰したり、特別ボーナスを支給している所もあります。素敵ですね。
報告内容の活用方法を公開する
忙しい業務の合間を縫って、自分が一生懸命作成した報告書が、誰かの事故防止の為に役立っている実感があれば、モチベーションの向上にもつながります。
報告書を提出したらそれでおしまいにするのではなく、報告書が最大限に活用される仕組みを整えると良いでしょう。
新人研修や教育の中でヒヤリ・ハットの事例を紹介するという取り組みも参考になります。
作成に負担がかかり過ぎない書式に変更する
書式が複雑すぎると、作成に時間がかかり、負担がかかります。
書式はなるべくシンプルにし、記載欄は必要最低限にし、項目によっては○や✔️を付けるだけの選択式にする等、記入しやすい書式に変更すると良いでしょう。
サービス残業を廃止する
ヒヤリ・ハットの報告は歴とした業務です。サービス残業は絶対にやめましょう。
こういう課題は、個人レベルではなく、職場全体で取り組むことが重要です。
働きやすい職場作りが、業務のレベルアップにもつながります。
ヒヤリ・ハット報告書作成時の注意点
発生後速やかに報告する
まず、前提として、ヒヤリ・ハットが発生したら、できる限り速やかに報告書を作成してください。
時間をあけてしまうと、記憶が曖昧になり、発生時の詳しい状況や事実を具体的に書けなくなってしまいます。
曖昧で正確性に欠けた記載内容では、原因の分析や、今後の対策に活用することが難しくなる為、なるべく速やかに報告書を作成しましょう。
5W1Hでまとめる
報告書を作成する際は「5W1H」を意識して必要な情報を整理することで、読む人に内容をわかりやすく伝えることができます。
5W1H
When:いつ
Where:どこで
Who:誰が
What:何が
Why:なぜ
How:どのように
客観的な事実を記載する
報告書には、作成者の感想や推測を交えず、発生したヒヤリハットについてありのままの事実を記載することが重要です。
客観的な事実のみを記載することで、読む人が当時の状況をより正確に伝えることができます。
起こり得る最悪の事態を想定する
報告書には、5W1Hに加えて、起こり得る最悪の事態について記入する項目も設けておくと良いでしょう。
起こり得る最悪の事態を想定しておくことで、報告書を作成した人も、報告書を読んだ人も、再発防止への意識をさらに高めることができます。
終わりに
最後までご覧いただきありがとうございました。
ヒヤリ・ハットは重大な事故を防止する為に、必要不可欠なものです。
ヒヤリ・ハットの本来の目的を理解し、質の高い報告書を作成しましょう。
職場全体で取り組むことで、ヒヤリ・ハットの件数は増え、事故も減っていくはずです。


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